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赤虎アイルー

某所で書き溜めたSSの保管庫

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41:飛竜の知恵

キーツさんが新しい仕事を始めたようです。
そんな感じでどうぞ。




「常に始まりと言うのは些細な物である。」


かつてどこかの賢人がそう言った様に、物事というのは何が起点となるか分からないものだ。
「きーつさーん」
「ん? あぁ、こんにちは。どうしたんですか?」
その日は特に予定も無く、家の掃除や片付けをしていた。
そこまで狭い家ではないとは言え、ご兄弟三人と私とミズキさんの五人で住んでいる以上、なるべくこまめにこうしておかないと、すぐ散らかってしまう。
そしてそれがひと段落したところで玄関先にやってきたのは、近所の男の子だった。
「あのね、さっきそこで『やくそう』を見つけたの。」
「へぇ、それはお手柄ですね。」
ポッケ村で言うところの薬草は、普通ハンターが狩りの際に用いる物を指す。
当然常に需要がある為、村の近辺ではハンターに宛がわれる農場以外ではほぼ採り尽くされ、天然の物が見つかるのは結構珍しいことなのだ。
「けどね、えっと、おかあさんにね、よく似たべつの草かもしれないから、ちゃんと見分けられる人に見てもらいなさいって言われたの。」
「なるほど。じゃ私が見てあげますから、そこまで案内してくれますか?」
「うん! ありがときーつさん!」
「どういたしまして。」
そして連れて行って貰った所には、本当に薬草が群生していた。
これはお手柄どころかちょっとした新発見ということで、すぐにギルドマスターや村長さんに連絡して、そこは村の共同薬草園として保護してもらう事になった。
「助かるわぁ~。初心者さんからベテランさんまで、ハンターさんにとっては薬草は正しく命綱だものね~。これでちょっとでもハンターさん達の狩りが楽になってくれたら、私も嬉しいわぁ~。」
「いえそんな・・・これはこの子のお手柄ですから。お礼ならこの子に。」
「えへへ・・・」
この新発見は村の中では噂になり、そのせいか度々家に尋ねてくる人が増えた。
「このキノコと毒キノコの見分け方を教えて欲しいんですが・・・」
「ポポ肉のいい保存方法って無いかしら?」
「畑の野菜の育ちが悪いんだが、何かいい方法は無いかね?」
どうやら何時の間にか私が物知りで色々教えてくれると伝わっているらしく、様々な質問が寄せられた。むげに断わるのも悪いので、できるだけ答えられるものには答えた。幸いにも昔から様々な本を読んできたので、大体の質問には対処できた。
しかしそれが更に訪れる人の数を増やしてしまい、これ以上はあー君達にも迷惑がかかるかもしれないと心配になり、村長さんに相談してみた。
「ほっほ、ならいっそ、学校を開いてみるのはどうだい?」
「学校・・・ですか?」
「うちの子供達は、大体が家の手伝いに駆り出されてるおる。それが畑作業だったり店番だったりと家によってバラバラじゃが、そのお陰で基本的な読み書きそろばんは皆出来る。特に苦労は無いと思うがの。」
「で、でも私に先生が出来るでしょうか・・・?」
「今でも先生の様な事をしているだろうに、何を心配することがあるんだい? 子供達が知りたいと思うことを、そのまま伝えてあげればいい。」
とりあえず、試しに一回やってみたらどうだい?
と勧められて、村の広場を借りての青空教室が開かれる事になってしまった。


そして今、こうして沢山の子供達の前で、いや何故か物珍しさに惹かれてやってきた大人数人も見ている中、私が教師として授業をする事になってしまった。
本当に、世の中何が原因になるか分からないなぁ・・・。
と、緊張のせいで思考が遠くに行ってしまいそうなのをどうにかとどめつつ、子供達の顔を見回しながら第一声を発する。
「えと、皆さんこんにちは。村長さんのご厚意でこうして青空教室を開けたわけですが・・・何か聞きたい事、質問したい事はありますか?」
だがその第一声も、子供達のぽかんとした顔ですぐに消えてしまう。
こ、これはあれかな・・・きっと授業や学校ってものが始めてで、どうしていいのかわからないんだよね?
「と、特に無いですか・・・? じゃあ、今日は私が持ってきたお話をしようと思います。」
こんなこともあるだろうと思って、持ってきた本を開く。
「皆、出来るだけ近くに来てくれますか? ・・・はい、それじゃ始めますね。むかしむかし・・・」
しかし始めようとした途端、輪になって周りを囲む子供達の中から、声が上がる。
「あれ? このお話のなまえは? なんていうなまえなの?」
「あ、いい所に気が付きましたね。実はこのお話には名前が無いんです。」
「えー? そんなの変だよう。」
声を上げた女の子は首を傾げる。
「確かに、ちょっと変わってるかもしれませんね。でも名前が無いのには理由があるんです。」
「どんなりゆうなの?」
「それは、このお話を最後まで聞くとわかりますよ。」
「ほんと? ききたいききたい!」
きらきらとした目で期待の眼差しが向けられる。
うーん、やっぱりちっちゃい子にはこのお話は抜群の効果があるなぁ。
あー君も昔は夢中で聞いてたっけ・・・。
「では・・・むかしむかし、ある所に三人の王様と三つの国、そしてひとつの山がありました。その山にはとても大きな竜が居て・・・」



「・・・そして竜は言いました。『この事は誰にも言ってはいけません。もし言ってしまえば、私はあなたを食べてしまわねばなりません。けれどあなたは私の初めての友だち、そしてきっとこれからもただ一人の友だちです。私は友だちを食べたくない。』青い目をした王様は言いました。『分かりました。この事はあなたと私だけの秘密です。そしてどうか、これからも友だちで居てください。』竜は頷き、やがて空の遠く遠くへ羽ばたいていきました。山のてっぺんには青い目の王様だけが残り、何時までもそれを見送っていました・・・約束どおり、青い目の王様は死ぬまで約束を守り、この事を他の誰にも言いませんでした。このお話に名前が付いていないのは、その為なのです・・・はい、おしまい。」
ぱたん、と本を閉じると、子供達が一斉に口を開く。
「すっげー! 王様すっげー!」
「でもどうして王様は竜を引き止めなかったんだろ?」
「なんでだろうねー?」
「そっかー、だから名前が無いんだー」
「あれ? じゃあ何でお話は伝わってるの?」
「あ、そういえば何でだろう?」
「俺も竜と友だちになりたいなー」
「私もなりたい!」
「どうして王様は友だちになれたのかな?」
「ねーキーツさんなんでー?」
「なんでー!?」
「なんでー!?」
「ちょ、そんな一辺に聞かれても・・・! 聞きたい事のある人は手を挙げて教えてくれるかな? あ、他の人が話してるときはきちんと聞いてるんだよ。」
「はいはい!」
「はーい!」
「んー・・・じゃあライ君。」
「えっとね、どうして王様は最初竜を助けてあげたの?」
「そうだね・・・王様も、最初は国を守る為に助けたんだと思うよ。でもそれだけじゃないと思うな。ライ君はどう思う?」
「え? えーっと・・・もっと竜とお話したかったから!」
「うん、私もそう思うな。きっと竜の方もそう思ったんじゃないかな・・・」


夢中で子供達と話していると、何時の間にか西の空は紅く染まっていた。
「はい、それじゃ今日はここまで。暗くなる前に皆お家に帰ろうね。」
「えー! まだ聞きたいことあるのにー!」
「私もー!」
「でもいい加減お腹も空いたでしょう?」
「あ・・・」
「続きはまた今度ね。あ、その時までにまた聞きたい事を考えておいで。」
「はーい!」
「きーつさんまたねー!」
蜘蛛の子を散らすように足早に帰っていく子供達を見送り、帰り支度をしていると、何時の間にか近所の奥さん方がやって来た。
「キーツさんお疲れ様。子供達の面倒見てくれてどうもありがとうね!」
「あ、いえそんな・・・」
「私も途中から聞いてたけど、中々面白いわねぇこのお話! こっちまでつい夢中になっちゃったわ!」
「ははは・・・」
「あ、そうだ。お礼といっちゃ何だけど、今日採れた野菜持ってって!」
「それなら、うちで取れた卵も!」
「わぁ、すいません、どうもありがとうございます!」
「いいのいいの! また今度やる時は教えてね! じゃ!」
「私も帰って夕飯の支度しなきゃ。それじゃあねー。」
「はい、どうもありがとうございました!」
両手いっぱいになったお土産に、笑顔になりながら家路を辿る。
家ではきっと皆お腹を空かせて待ってるだろうし、急がないと。


世の中何が始まりになるかはわからない。
だけど、こんな風に人の役に立てることが、今はただ嬉しかった。



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