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赤虎アイルー

某所で書き溜めたSSの保管庫

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38-1:名前も無い感情(前編)

ごくたまにシリアスがとても書きたくなってですね。
しかしこれ初っ端からグロいかもしれない・・・。
まぁどうぞ。




月と星の光に照らされた、夜の森を駆けていた。
確か何かから逃げて・・・いや、何かを追いかけて。
やがて遠くに黒い影が見えて、俺は迷わず矢を番え、それを狙い撃つ。
矢は真っ直ぐ飛んでいき、影に命中した。
影はけたたましい叫びを上げたが、やがて動かなくなる。
俺は影に駆け寄った。勿論、普段の狩り通り、素材を剥ぎ取る為に。
近づくにつれ、影の正体が鮮明に見えてくる。
傷だらけの体に、大きな裂傷が出来ている尻尾。
それに、矢が刺さって片目の潰れた顔。

影は、出会った日の姿をしたトトルだった。

だが俺は特に何の感慨も躊躇いも抱くことなく、何時ものようにその皮膚に剥ぎ取りナイフを




そこで目が覚めた。
起き上がって周りを見渡せば、自分の家の自分の部屋で、横では早速ラジーと作ったメイド服を抱えて幸せそうに眠るトトルが居た。
あんな夢を見たって言うのに、俺は体の震えもなく、寝汗の一つも掻いていなかった。
いや、それどころか心の中は何も感じていなかった。
・・・人間の体は許容量を超えたものに対して、何も感じないようにする防御本能を持っているというが、こういうことなんだろうか。
そっと、トトルの髪に触れてみる。本当は頭を撫でてやりたかったが、こんなに幸せそうに寝ているのを起こすのは忍びなかった。
この間切った時はあんなに硬かったのに、こうして触れるとあまり硬い感じはしないし、とても温かい。
指先を離してもまだその温かさが残っている気がして、俺は居た堪れなくて寝床から起き上がった。


空の月は西に沈みかけていた。
あと数刻もすれば日の出になるだろう。
俺は家から少し歩いて、村長さんが何時も陣取っているマカライトの大岩の前に腰を下ろす。
遠くに連なる山々と、煌く湖面が月に照らされているのが見える。
もうすぐ夏が近いと言っても、ポッケ村のあたりはまだ雪が残ってるし、こんな時間は肌寒い。
だけど今はこの寒さが心地よかった。
こないだスヴェンが持ってきた年代物の黄金芋酒を少しづつ飲みながら、遠くを眺めていると、様々な思いが浮かんでくる。


昔、父に付き合って初めて狩りに出かけた時、血を流して苦しむ獲物達を見て泣いた俺を、父は哂う事も叱る事もしなかった。
ただ黙々と皮を剥ぎ肉を切り分け、一言「忘れるな」とだけ言った。
そして俺は現に今の今まで、この事を忘れられずにいる。
それは命のやり取りに無関心になるなという意味だったのか、それともこれが狩人というものだという意味だったのか、今もって俺にはわからない。
ただ、今のこの気持ちは、あの時「忘れるな」と言った父に、そう言わしめた感情に近い気がした。
・・・まぁ正直に言ってしまえば、その感情が何なのか、まではやはりよく分からないけど。
・・・アンナは、この感情が何なのか分かったのだろうか?
だから、何時か別れると分かっているコウライの子供を生んでも、大丈夫だって笑顔で言い切れたんだろうか?
・・・俺にも、何時か分かる時が来るだろうか?
そして、トトル達との別れが来ても、笑顔で大丈夫だと言い切れるようになるだろうか・・・?


気が付けば月はもうほぼ沈んでいて、辺りは更に暗くなっていた。



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